「これから検察官とLINEで話します」——振り込め詐欺の現場
先日、当職の事務所に家庭裁判所の関連する案件で関係のあると方からお電話をいただきました。事務局が対応していましたが、「検察官の調べ…」などと前の席から聞こえてきたのですぐに電話口を代わり、事情をお伺いしました。
明日昼に検察官と話をしないといけない。LINEでテレビ電話をすると言っています。
と言われるので、誰が言っているのか確認したところ、豊島警察署の方です。と。
これは明らかにおかしいので、LINEのブロックをお願いしましたが、ブロックの仕方がわからないようなので、スマホの電源を明日10時に当職らがご自宅に伺うまで切っていただくようお願いしました。そのときすでに、多額のお金を失いつつありました。
※ご本人が特定されないよう、事案の細部は変更しています。
始まりはお金の話ではなく、「取調べ」でした
詐欺グループは、最初にお金の話をしません。始まりは脅しです。
「あなたの名義で、送ってはならないものが送られています」 「このままだと、あなたも捜査の対象になります」
身に覚えがないからこそ、「きちんと説明しなければ」と、こちらから相手にすがる気持ちになってしまう。善良な方ほど、この入口で捕まります。
そして連絡は何日も続き、そこで繰り返されるのが「取調べ」という言葉でした。今から取調べを始めます、明日も取調べがあります、内容は家族にも話さないでください——。
伺ったお客さまも、話を聞いている最中に「……また取調べですか」と、その一語にだけはっきりと反応されました。表情が変わるのがわかりました。
権威をまとった言葉で逆らえない相手だと思わせ、期日を指定して生活の主導権を握り、「捜査上の秘密」を口実に家族から切り離す。こうして判断力を落としきったところで、ようやくお金の話が出てきます。金銭の要求が遅いのは、彼らの優しさではなく手順です。
本物の検察官や警察官が、LINEのビデオ通話で取調べをすることはありません。そこだけは、覚えて帰っていただきたいところです。
お金は、こう抜かれていきます
今回使われたのは、近年非常に多い流れでした。
① 大手都市銀行に、新しく口座を作らせる 長年通う地元の支店では、窓口の方が「どうされたんですか」と声をかけてくれる。その一言を避けるために、誰も自分を知らない口座を用意させます。
② その新口座に、自分の預金を集める 地元金融機関の口座から、新しい都銀口座へまとまった金額を移させます。ご本人名義から、ご本人名義へ。だから抵抗が薄くなります。
③ 暗号資産の取引アカウントを作らせる 「資産を保全するため」と説明されます。
④ 都銀口座から、暗号資産を購入させる
⑤ 暗号資産を、他人名義の送付先へ移させる ここで初めてお金が出ていきます。 送付は取消しがきかず、送付先は次々と転々とし、回収は極めて困難です。
①〜④は「準備」で、被害が確定するのは⑤の一瞬。逆に言えば、⑤の前ならまだ間に合うということでもあります。
⑥ そして次は、「証券口座の解約」でした 現金がなくなれば、次は株式や投資信託です。出せるものが尽きるまで要求は終わりません。私たちが伺ったのは、この段階でした。
詐欺グループの窓口(警察官役)はとにかく丁寧な物言いと寄り添う態度に終始しており、被害者が窓口の警察官を恐れて家族に電話する契機を削ごうとしているのでしょう。とにかく巧妙なシナリオ設定を展開していますので、お一人ぐらしの高齢者では太刀打ちできません。
その場でしたこと
まず、スマートフォンの電源を切っていただきました。 説得よりも先に、接触の遮断です。相手は24時間いつでも語りかけられる立場にいるので、どれだけ丁寧に説明しても電話一本でひっくり返されてしまう。「相手のいない時間」を作ることが、何より効きます。
そのうえで、翌朝ご自宅へ伺い、証券口座の解約を手続前に止め、最寄りの警察署刑事課へ連絡して引き継ぎました。 解約に間に合ったことが、この件のいちばん大きな成果です。
ご家族へ——こんなサインが出ていませんか
- 電話やLINEの着信を、時間を決めて待っている
- 「取調べ」「検察官」「逮捕状」といった言葉が会話に出る
- スマートフォンを手放さず、画面を見せたがらない
- 見慣れない銀行のキャッシュカードや封筒が家にある
- 急にまとまった預金を動かした形跡がある
- 暗号資産や証券口座について、急に尋ねてくる
- 「誰にも言うなと言われている」と口にする
ひとつでも当てはまるなら、責めずに聞いてあげてください。進行中だと感じたら、まずスマートフォンの電源を切ってください。 議論より先に、それが効きます。
そして、いちばん厳しくご本人を責めているのは、ご本人です。ここでご家族から「どうしてそんなものに」と言われると、その後は誰にも相談できなくなり、被害はかえって深くなります。 恐怖と孤立を何日もかけて作り込む、設計された攻撃です。年齢や職業にかかわらず、同じ手順を踏まれれば多くの人が同じところへ連れていかれます。お近くの警察署にすぐ通報してください。




